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とっておきの場所に鎮座した“国の華”〜古今の盛衰を物語る丹後国分寺跡と国分寺〜
画像:京都府立丹後郷土資料館提供
奈良時代、勅命により全国各地に建てられた国分寺。
宮津にもその一つである丹後国分寺があったことをご存知ですか?
“国の華”と呼ばれた寺の隆盛と衰退の歴史をご紹介します。
宮津に天皇の詔によって生まれた大規模寺院があった!
テレビや雑誌などメディアで取り上げられる天橋立のおなじみの景色は、大抵が砂州を北や南から眺めたもの。
しかし実は、砂州の西側に広がる内海・阿蘇海越しに見る天橋立の姿もまた、とても美しく神秘的なものなんです。
奈良時代、天橋立を西側から一望するこの場所に広大な寺院が建立されました。それが、丹後国分寺。
七重塔がそびえる大伽藍(がらん)が、一帯の隆盛を物語るかのように存在感を放っていたと考えられています。
2020年に行われたイベントで、ARによって復元された中世の五重塔の姿
国分寺とは、仏教伝来からおよそ200年後の天平13年(741)、度重なる飢饉や疫病の流行、内政の混乱などを治めるべく、仏教による鎮護国家を目指して聖武天皇が発した詔を受けて各地に建立された寺院のこと。丹後国分寺もその一つです。国分寺という地名は今も宮津のみならず、全国のあちこちに残っています。
詔には「国ごとに七重の塔を建て、併せて金光明最勝王経と妙法蓮華経を写経させることとする」という意味合いの文言とともに、寺を造営する場所について「七重塔を持つ寺は国の華であり、必ず良い場所を選んで長く久しく保つようにしなければならない」といった内容が記されていました。丹後国分寺があったのは、丘の上から天橋立を間近に望むことができる素晴らしい眺望に加え、この時期の国府があったと推定される安国寺遺跡とも近からず遠からずの距離という場所。つまりここが“国の華”を置くのにふさわしく、詔の要求に叶うとっておきの立地だったのです。
長い歴史の中で繰り返した、隆盛と荒廃
画像:京都府立丹後郷土資料館提供
丹後国分寺はその歴史の中で、何度も盛衰を繰り返してきました。創建当時の遺構は残念ながら見つかっていないものの、当時の瓦が発見されたことから、最初の丹後国分寺もこの地に建てられたのだと考えられています。しかし、人々の信心を集め大いに繁栄したであろう丹後国分寺も、律令国家の衰退とともに荒廃。歴史資料からもその姿を消します。その後、平安時代末〜鎌倉時代頃になると再び繁栄を取り戻したよう。丹後国分寺跡周辺から、この時代に海外から輸入された陶磁器が数多く出土したことからもその様子が伺えます。
そして鎌倉時代末頃、寺は再び衰退。伽藍には狐や狼などが棲みつき、本尊が盗難に遭うなどひどく荒廃していたようです。この危機から寺を救ったのが大和西大寺の僧・宣基(せんき)上人。尽力により寺は復興を果たし、この時の伽藍は戦国時代まで存続したと伝わります。
画像:京都府立丹後郷土資料館提供
この時期の天橋立周辺をつぶさに描いているのが、かの有名な雪舟の『天橋立図』。図のほぼ中央に丹後国分寺も描かれており、伽藍の配置が現存している建物跡の配置とほぼ一致していることからも、寺が確かに復活を遂げたことを窺い知ることができます。
画像:京都府立丹後郷土資料館提供
ところが、復興した丹後国分寺も戦国時代の戦乱により焼失。炎の激しさを物語るように、礎石には今も強い火を受けた痕跡が見られます。
江戸時代の丹後国分寺に関する数少ない資料には、天和3年(1683)の洪水によって破損したと記されています。その後、寺は水害を避けて背後の高台に移転。そこが現在の国分寺の建つ場所です。
タイムスリップ気分に浸れる絶景「天平観」
画像:京都府立丹後郷土資料館提供
幾度となく困難に遭いながらも復興を繰り返し、今日までその歴史と法灯を絶やすことなく繋いできた国分寺。
かつて寺があった場所は史跡丹後国分寺跡として整備され礎石などを見ることができ、ここからの見事な景色は天平観と名付けられ、今も人々を魅了しています。すぐそばには丹後の歴史・考古・民俗資料が展示されている京都府立丹後郷土資料館があり、あわせて訪れれば宮津の歴史をより深く知ることができます。
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さらに現在の国分寺からも天橋立を一望できるほか、境内では神社仏閣の彫物師として活躍した中井権次の作だと伝わる木彫りの龍などを見ることもできるので、天平観を見に訪れた際にはぜひ、現在の国分寺にも足を運んでみては。
激動の歴史を辿った丹後国分寺と、今も静かに天橋立を見下ろす国分寺。その歴史を知ってから、かつて僧侶たちが眺めたであろう天平観を見ていると、自然と往時に思いを馳せてみたくなります。
〈データ〉
国分寺
所在地:京都府宮津市国分793
電話:0772-27-0351
参拝時間:9:00〜17:00