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宮津の海は高級食材「とり貝」の楽園!その美味しさの秘密とは?
春から初夏の旬の味覚として高級料亭などで登場するとり貝、皆さんは食べたことがありますか? その美味しさに加え旬が短いことから、しばしば幻の食材とも称されます。中でも宮津のとり貝は、大きさも美味しさも規格外! その秘密は、“人と海”にありました。
とり貝たちのパラダイス!豊かな宮津の海
とり貝は、噛むと溢れ出す旨みや独特の歯応えが魅力の高級食材。中でも特に大きく肉厚で、甘味も強いと言われるのが宮津のとり貝です。宮津では天然と養殖の2種類のとり貝が水揚げされます。
「宮津のとり貝の味は、世界一だと思います。そしてその秘密は海にあります」と話してくれたのは、“スーパー漁師”の本藤靖さん。25年ほど水産研究者として日本中の海を巡り、10年前に地元・宮津に戻って漁師になったという異色の経歴の持ち主です。科学的な分析を漁に生かすだけでなく、海や生き物を守ることで持続可能となる循環型漁業を目指して、様々な取り組みを行う海のスペシャリストです。
「宮津の海にはもともと、天然のとり貝が生息しています。それが大きくてものすごく美味しい! スペシャルなとり貝が育つのは、宮津湾が貝たちにとって居心地の良い海だからです」と本藤さん。「宮津湾にはいくつもの川から、周辺の山々の恵みを受けた水が注いでいます。さらに、栄養分豊富な湧水が陸地にも海底にも湧き出ているおかげで、貝類の餌となる植物プランクトンがたくさん。さらに潮の流れも穏やかで、貝が好む環境が見事にそろっているんです」
自然が育んだ宝物 天然とり貝
宮津で天然とり貝の漁が解禁となるのは7月。養殖では約1年生きたとり貝を水揚げしますが、天然のとり貝は春と秋に2回産卵し、1年以上長生きするものも。そのため、規格外の大きさのとり貝が獲れることもしばしば。一番大きなサイズだと、1個5,000円を超える値が付くこともあるそう。
徹底された資源管理により、1日に獲れるのは30個まで。割れた貝でも1個として数えます。現在とり貝漁をしているのは多くても30隻ほどなので、1日に900個しか獲れないとても貴重な貝だということがわかりますね。
「宮津では天然とり貝の漁が解禁されると朝5時に一斉に船が出ます。漁ができるのは9時までなので、効率よく漁をこなせるように、それぞれの船は事前に決めていたポイントへと向かいます。漁師たちは熊手のような形をした桁に網を取り付けたものを漁船の後ろに装備し、海底を掻いてとり貝を獲ります。
取り付ける角度や船の操縦技術などをいかに上手く調整できるかがたくさん獲るための鍵。漁師の腕の見せ所ですね。「僕は独自の計算を基に漁をします。みんなそれぞれのやり方で、天然とり貝漁を行っています」と本藤さん。
規定量を獲り終えた漁船は、次々と港へ帰ってきます。その際に地元漁師たちは網にかかった海底ゴミや漂着ゴミも持ち帰り、“宝の海”を守っています。
丹後がパイオニア!養殖とり貝
天然とり貝は年によって水揚げの豊凶にバラつきが出やすい海産物。そこで、貴重なとり貝を安定した漁獲量で獲りたい! と丹後で始まったのが、前例のない養殖でした。京都府農林水産技術センター海洋センターや京都府漁業協同組合が一丸となり、7〜8年もの月日を費やして、稚貝を人工孵化させ、それをコンテナに入れて海中に吊り下げるという方法を開発。今では宮津湾で年間約1万個もの育成のとり貝が水揚げされるようになりました。
左が丹後とり貝、右が一般的なとり貝(写真:京都府漁業協同組合)
京都府の海で養殖されたとり貝は「丹後とり貝」と名付けられ、一般的なとり貝よりずっと大きく肉厚で、味わいもハイレベルだと言われています。
天然とり貝の漁と「丹後とり貝」の育成、どちらも手がける本藤さんに、とり貝の育成が行われるイカダを見せていただきました。揺れ動いて貝のストレスにならないようしっかり固定されたイカダにコンテナが吊るされ、その中にはアンスラサイトという鉱物を砂状にしたものが敷き詰められています。これが、とり貝の棲み家。宮津湾では現在6人の漁師がそれぞれ2,3基のイカダでとり貝を育成しています。
美味しさは“どれだけ手をかけるか”に比例する
「目指しているのは肉厚でプリッとした食感の、本当に美味しいとり貝です」
そう話す本藤さんは、一年中ほぼ毎日、朝5時頃海に出ます。貝の養殖と聞くと、放っておいても育ちそうなんてイメージがあるかもしれませんが、それは全くの間違い。質の高いとり貝を育てるためには、骨の折れる作業がたくさん発生するのです。
「まずはコンテナの中に、種苗と呼ばれる貝の赤ちゃんを入れます。最初は数十個入れて、成長とともに数を減らしていく。どれくらいの密度で育てるかは漁師に委ねられていますが、僕の場合は一つのコンテナあたり5〜10個ほどと、低密度飼育をしています」
その理由を尋ねると、「とり貝にとってどうすれば一番快適か。それを何より大切に考えているからです」と教えてくれました。それこそがとり貝の美味しさに直結しているのだと言います。そのため宮津湾では、イカダ自体も比較的ゆとりを持たせて設置されているのが特徴です。
貝を健やかに育てる工夫は他にも。コンテナは月に一度、付着物を取り除いて清潔にするために引き上げ、陸に持ち帰って洗浄します。これを順番に行うと、毎日のように洗浄作業が発生。コンテナは一つ40kgほどもあり、大変な重労働です。
また、とり貝は非常にデリケート。その上潜るのが下手な生き物だそうで、潜り損ねていると天敵のクロダイなどにすぐにバクリといかれてしまうので、コンテナには一つひとつ網をかけて保護します。
出荷がスムーズに行えるよう、事前に一度引き揚げて同じサイズごとにコンテナに分け、水中に帰すという作業も。その時の本藤さんの手元は実にスピーディー。これも貝への負担を減らすための努力です。
この作業をしている間、本藤さんの貝は身動き一つしません。「元気のないとり貝は、この作業に耐えられず苦しんで、もがくように暴れます。とり貝が穏やかなのは、元気な証拠です」と本藤さん。毎日の細やかなお世話が、パワフルなとり貝を育てているのですね。
この日、本藤さんと一緒に選別作業をしていたのは、25歳の息子さん。大学を卒業後、宮津で漁師になる道を選びました。
「今まで父の仕事の都合で何度も引っ越しましたが、どこよりも宮津の海産物が美味しかったんです。他にも興味のある職業はありましたが、この宝物のような海をこれから守っていけるのは、宮津で生まれた自分なんじゃないかと、漁師になる決意をしました」
漁師の高齢化や廃業が進む中、若いエネルギーは宮津の海を守る光となってくれるでしょう。この先も宮津のとり貝が、多くの人を感動させてくれそうですね。
憧れの食材、宮津のとり貝をいただきます…!
世界一!と言われる宮津のとり貝は、その大半が東京や大阪など都市部の高級料亭やレストランへと出荷されます。握り寿司や刺身、酢の物などに調理されることが多く、一度食べたら忘れられない美味しさに、即とり貝ファンとなる人も多いそう。
とり貝の身には黒い部分があり、通常のまな板で下ごしらえをするとそこが剥がれて美しく仕上がらないため、ガラス製のまな板を使います。繊細な食材ですね。
熱を通すことでより甘みが増すと言われ、湯通ししたり炙ったりして食べても絶品です。
もちろん、新鮮なとり貝を宮津で味わうこともできます! 下記のお店をチェックしてみてくださいね。
料亭ふみや
https://ryoutei-fumiya.co.jp/
ほかのお店は「宮津天橋立とり貝昼処マップ」をチェック!
https://www.city.miyazu.kyoto.jp/site/torigaihirudokoro/