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実はこんなにすごいって知ってた?宝物でいっぱいの宮津の海

印刷用ページを表示する 記事ID:0007769 更新日:2021年3月17日更新
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漁師港と漁師

 

宮津で暮らす人、旅で訪れた人。そのどちらも、この街の風景といえば美しい海辺の景色を思い浮かべるのではないでしょうか。古くから漁業や廻船業で繁栄してきた宮津という街を、もはや豊かな海の存在抜きに語ることはできません。

今回は“スーパー漁師”と呼ばれる本藤靖さんに、宮津の海の知られざる魅力や特徴、そして知っておきたい現状について教えてもらいました。

 

 

ただの海じゃない!湧水が育む宮津の海​​​​​​​

クロダイ

 

宮津の海の魅力を探るべく今回お話を伺ったのは、大学を卒業後、独立行政法人水産総合研究センターなどで水産研究者として25年ほど勤務し、日本中の海を巡りながら漁業や養殖にまつわる研究をしてきた本藤靖さん。現在は生まれ育った宮津に戻り、漁師として活躍しています。

「全国各地の海を肌で感じながら研究してきて、改めて故郷の海に目を向けたとき、ここは宝の海だと再確認しました」と本藤さん。宮津の海を取り巻く環境は、実はとても恵まれたものなのだといいます。

 

宮津湾

 

宮津は海の近くに豊かな山々があり、大手川や野田川といったいくつもの川が湾に流れ込んでいます。そして、栄養分を豊富に含んだ湧水が陸地にも海底にも湧き出ています。これだけの条件がそろうのは、実は稀。この恵まれた環境が、宮津の海を豊かな“生きた海”にしているのです。川から流れ込む水とミネラルたっぷりの湧水は海に植物プランクトンを増やし、それが動物プランクトンを、そして小魚を育みます。この栄養豊富な小魚を食べるアジやカマスといった魚は、外洋にいるものに比べ脂が乗ってとっても美味。昔から宮津で干物などの美味しい加工品が作られてきたのは、こういった魚がよく獲れたからなのでしょう。

 

出航する漁船

 

宮津の海は決して広くはない湾で、入江は「くの字」形。大きな魚がたくさん棲むような環境ではありません。魚たちにとって、宮津湾は言わば保育所。スズキやマダイ、マアジなどがある程度のサイズになるまでこの穏やかな海で育ち、やがて外洋へと旅に出るのです。アマモなど海藻がよく育つゆりかごのような海で、水産物として穫れるのは小型から中型の魚のほかナマコや貝、エビ、タコやイカといった湾内で暮らす生き物たち。特に流れが強すぎるとうまく餌を食べることができない貝類にとってこの海は楽園で、日本でもトップクラスに美味しい貝が育ちます。

また、四季が色濃く、朝夕の寒暖差がしっかりとある宮津の気候は、魚介類に明確な旬を与えます。そのため、季節ごとに美味しい海産物が穫れるのですね。

「幸運なほど自然環境に恵まれた宮津の海は、様々な生物を育むポテンシャルを秘めた、懐の深い海だと言えます」と本藤さん。

 

 

それぞれに個性が光る、3つの海​

3つの海

 

宮津の海と一口に言っても、場所によってその特徴は様々。ここでは周辺の海を宮津湾・阿蘇海・栗田湾の3つに大別して、さらに詳しく見てみましょう。

 

 

海底の泥が生きている 宮津湾

宮津湾

 

まずは、天橋立の東側に位置する宮津湾。「海底からかなり湧水が湧いているようで、環境を汚染する大きな工場なども付近にあまりない。まさに先ほど言った保育園やゆりかごのような海、宝の山ですよ」と本藤さん。さらに「注目すべきは泥。宮津湾底の泥を舐めてみると、貝の出汁のようなまろやかなしょっぱさがあり、嫌な臭みがない。ミネラル豊富な水がプランクトンを増やすので、宮津湾の泥は生きているんです」。

 

丹後とり貝

宮津湾で獲れた丹後とり貝

 

その泥が育む代表的な海産物が、天然の丹後トリガイ。「大きさと味は世界一と言っても過言ではないと思います」と本藤さん。肉厚で大きなナマコなどもよく育ち、まさに宮津の漁業を支える海だと言えます。

 

 

色の違いは植物プランクトンの数 栄養満点の阿蘇海​

阿蘇海と宮津湾

 

次に、天橋立の西側の内海・阿蘇海。天橋立の東と西では、海の色が違うことに気づいている方も多いのではないでしょうか。阿蘇海が濁って見える秘密は、植物プランクトン。「阿蘇海は水の交換が極めて少ないので、栄養たっぷりの水が留まる。例えるならフラスコの中でプランクトンを増やしているような状態なんです」。植物プランクトン量はなんと、宮津湾のおよそ100〜500倍とも言われるそう! このような環境は全国的にも珍しく、貝などにとってはパラダイス。ここに迷い込んだマイワシは見る見るうちに脂をたっぷり蓄え、金樽鰯と呼ばれる絶品イワシへと変身してしまうほどスーパーな環境です。

 

 

絶妙な潮の流れがある海域 栗田湾

栗田湾

 

そして3つ目は、栗田半島の東側に位置する栗田湾。湾と言いながらも宮津湾や阿蘇海に比べると外洋に近く、閉鎖的過ぎず適度に潮の流れがある絶妙な海域。こう言った環境を好むイワガキなどがよく育つのだと言います。

 

かき

 

このように、多様な顔を持つ宮津の海。ゆえにバラエティに富んだ海産物の宝庫なのですね。​

 

 

宝の海を枯らせるな!未来に繋ぐチャレンジ

宮津湾

 

平和に見える宮津の海ですが、実は危機にも直面しています。それは、日本の海全体が抱える深刻な問題。「今、日本中の海が痩せてきています。気候変動や環境汚染も影響していますが、一番の問題は漁業のあり方です」と本藤さん。

今よりたくさん魚がいた時代の日本では、穫れる魚はどんどん獲ろうという考え方が定着。各地でそうした漁が続けられた結果、魚介類はどんどん数を減らしていきました。宮津の海も例外ではなく、本藤さんが帰郷したおよそ10年前の時点でかなりダメージを受け元気のない海になっていたと言います。「このままの勢いで獲り続ければ、近い将来に魚も貝も捕れなくなることは明白でした。しかし、危機感を持つ漁師は少ない。この宝の海をなんとか守らなければと思いました」。自分たちが獲る生き物がどのくらい卵を産み、そのうち何割が生き残り、どれだけの時間をかけて大きくなるのか。まずはそんな基本的な生態を、海に関わる人たちがしっかり知ることから始めなければと、本藤さんは京都府の海洋センターや京都大学などに協力を仰ぎ、地元漁師たちを対象にした勉強会を開催。美味しい旬のものを選んで適切な量を獲る。海を守りながら収入もしっかり得る、そんな循環型漁業を目指し、“いま捕り過ぎないことが将来の海を守り、回り回って自分たちも豊かにする”と、漁師仲間たちに根気強く訴え続けます。

 

赤なまこ

 

その努力が形となった代表的な海産物が、宮津名物のナマコ。

「年間の漁獲量の上限を、一人あたり500kg、皆で合わせて10tまでしか獲ってはいけない、小さいうちは獲らないといったルールを敷き、そしてそれを皆で実行しました。地域に長年根付いてきた慣習を変えることは、想像以上にハードルが高いもの。それをクリアしたことは、とても大きな一歩でした」

その成果が認められ、2018年(平成30)に開催された「第23回全国青年・女性漁業者交流大会」では「宮津なまこ組合」が農林水産大臣賞を受賞。宮津の海は、未来を見据えて一歩進んだ取り組みを進めている最先端の海として、全国から注目を集めているのです。

 

飛龍観

 

「美味しい海鮮と地酒があって、素敵な宿と美しい景色がある。やっぱり宮津はそういう街でなくちゃと思うんです。ここで獲れたものを食べてこそ生まれる感動を、絶やさず繋いでいきたい」と本藤さんが熱い思いを語ってくれました。

海を知ることで、景色にも食べ物にも宮津という街そのものにも、ちょっと興味が湧いてくる。それはきっと、故郷をもっと好きになったり、宮津の旅を心に残るものにしたりするきっかけになってくれることでしょう。

 

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