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人気料亭こだわりの逸品!宮津遺産認定の焼き鯖すし
宮津遺産に認定されている「焼き鯖すし」は、新鮮で脂がのった鯖(さば)を香ばしく焼き上げ、シャリとの間に酢漬けの生姜(ガリ)をはさんだ逸品。まだ焼き鯖すしが世間で知られていない頃から販売が始まり、やがて全国各地のデパートの催事を中心に人気を集めるようになりました。
この焼き鯖すしを作っているのが、大手川の河畔に佇む「料亭ふみや」です。大将の稲葉洋一(いなば よういち)さんにお話を伺うと、焼き鯖すしの人気の秘密と宮津遺産認定の背景には、「焼き鯖すしなんて売れない」と言われながらも頑固に作り続けてきたこだわりと、宮津を愛する心、そして大将と女将さんを慕って通い続ける常連さんの存在がありました。
「自分が美味しいと思うもんしか出さん」
京都市にある花街・先斗町の料亭で修業したのち宮津へ戻り、多くの人を料理で魅了し続ける稲葉さん。「自分が美味しいと思うもんしか出さん」という強い思いが、この焼き鯖すしに凝縮されています。
なかでも焼き鯖すしの命ともいえる鯖は、脂ののりが良い600g以上の大きなものだけを使用。直火で余分な脂と生臭さをとり香ばしくしっかり焼き上げることで、黄金色に輝く焼き鯖ができあがります。焼き加減が一番大事で、皮が焼けるパチパチという音で絶妙なタイミングを見極めるとのこと。
鯖の表面を乾燥から防ぐために蒔かれた白板昆布は自家製の甘酢で漬け込まれ、鯖の旨みをさらに引き立てガリとのバランスをとるいぶし銀の脇役。宮津産のシャリは程良い甘さで、間にはさまれたガリが心地良いアクセントを生み出します。
焼き鯖とシャリ、昆布、ガリの全てが一つとなった味わいはまさに絶品! 焼き鯖すしが大好きという人はもちろん、普段、焼き鯖すしになじみがない人からも喜ばれています。
デパートの催事で人気を集めた焼き鯖すし
料亭ふみや大将の稲葉洋一さん
料亭ふみやの焼き鯖すしが誕生したのは、1999年のこと。デパートの担当者から「催事に並ぶ商品を提案してもらえないか」という相談を受けた大将は、どんな商品を出せばよいか思案に暮れていました。
そんな時、たまたま出かけた北陸で大将の注意を引いたのが「焼き鯖すし」と書かれた看板でした。京都では鯖すしが有名ですが、焼き鯖すしは馴染みがありませんでした。
「当時はまだ焼き鯖すしが全国的にも地名度が低く、私も看板を目にした時に、一体どんなおすしなのか想像もつかなかったんです」
そこで大将は、店を訪れる常連さんに試食をしてもらいながら試行錯誤を重ねて、料亭ふみやオリジナルの焼き鯖すしを完成させたのです。
竹皮に包まれた料亭ふみやの焼き鯖すし
大将はできあがった焼き鯖すしを持って、意気揚々とデパートの担当者のもとを訪れました。ところが担当者から言われたのは「焼き鯖すしなんて知名度もなく催事では売れない」という、思いも寄らぬ反応でした。催事場で与えられたスペースは小さく、鯖を焼ける台が置けないほど。焼きたて、つくりたてを提供したい大将は、なんとかデパートのバックヤードを使わせてもらい黙々と鯖を焼き上げて、販売を決行しました。すると、担当者も驚くほどお客さんが次々と興味を示したのです。やがて料亭ふみやの焼き鯖すしはジワジワと口コミで人気が広がり、催事に欠かせない商品となっていきました。
焼き鯖すしを天橋立に見立てたユーモラスなイラスト
やがて、空港で売られるお弁当こと「空弁」をきっかけに焼き鯖すしが全国的なブームとなると、各地のデパートからの引き合いも増え、東京をはじめ全国各地のデパートの催事に出店するようになります。料亭ふみやの名前を広めるとともに、海の京都・宮津のまちの存在を広くPRすることにもつながりました。
催事会場に並ぶ料亭ふみやの焼き鯖すし
焼き鯖すしブームが落ち着きを見せ始めると、大将は焼き台を催事会場内に設置し、お客さんの目の前で鯖を焼きあげる演出を取り入れました。このアイデアが見事に当たり、リピーターだけでなく新たなお客さんの獲得に成功したのです。
この焼き鯖すしは、料亭ふみやで落語会を開く縁から、桂米朝(かつら べいちょう)一門の桂(かつら)ざこばさんや桂塩鯛(かつら しおだい)さん、桂吉弥(かつら きちや)さんもよく購入されるそうです。
夫婦の掛け合いが絶妙な宮津の人気料亭
焼き鯖すしを通じて宮津の魅力をPRし続けている料亭ふみやは、昭和63(1988)年に開業しました。宮津のまちでは接待や法事などでよく利用され、京阪神、特に大阪から訪れる観光客が多く、美食ときめ細かい接客でもてなしています。
大将が作る料理の味はもちろんのこと、女将の時子(ときこ)さんの明るく朗らかな人柄が評判になり、リピーターとして何度も訪れる人もいるそうです。
大将の稲葉洋一さんと女将の時子さん
「大将の作った美味しい料理と仲居さんの素晴らしい接客の間に、私が入ってごちゃごちゃぐたぐたするんです(笑)。料亭ってこんなにうるさいのかと、最初に来た人はびっくりしますが、それを何十年とやってるんです。おかげで何度もお見えになるお客様もいて、そうした方々にうちは支えられています。」(時子さん)
料理一筋の頑固な大将と、マシンガントークでお客さんを笑わせてくれる女将。そうした夫婦の掛け合いは、まるで上方漫才の「宮川大助・花子」のようだといわれています。
「病気で余命宣告されているお客様がずっと何年もうちに来てくれて。『ここには力をもらいに来ている。女将さん、私、今年も来れたわ』とおっしゃってくれたこともあるんです」(時子さん)
こうしたリピーターの存在が、焼き鯖すしを作る上で大きく役立ったと話す大将。料理に対する強い信念を持ちつつ、お客さんの声を柔軟に取り入れる姿勢が、料亭ふみやの焼き鯖すしを世に出すことにつながったのです。
長年、地元産の米にこだわり、地域外での積極的な販売を通じて宮津をPRしていることから宮津遺産に認定された料亭ふみやの焼き鯖すし。
「お客様のなかには、『京都に海があるの!?』と驚かれる方もいらっしゃいます。そうした方には、『宮津ってこういうまちなんですよ』と観光パンフレットをお渡しするようにしています。次回はぜひ、宮津へお越しくださいね、と。」(大将)
料亭ふみやの焼き鯖すしは、デパートでの催事の他、電話での通信販売でも購入可能です。今後も焼き鯖すしを通じて、宮津のことを少しでも知ってもらえるよう期待しています!
<追記>
焼き鯖すしを生み、育て、愛した大将・稲葉洋一は2023年2月に亡くなりました。
ですが、これからも大将の味を引き継ぎ、焼き鯖すしをはじめとした伝統の味を守っていきます。
料亭ふみや 女将
<データ>
料亭ふみや
宮津市島崎2039
TEL:0772-22-0238
ホームページ:https://ryoutei-fumiya.co.jp/<外部リンク>