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宮津が誇るレアな自然!世屋高原のブナ林と大フケ湿原
日本海に面し、市域の約8割を森林が占める自然あふれるまち、宮津市。今回注目したいのは、宮津の豊かな自然の中でも特に貴重なブナ林と湿原です。そこは、まさに“宮津の宝物” と呼ぶのにふさわしい場所でした。
集落の人々と共生してきた里山のブナ林
今回ご紹介したいブナ林と大フケ湿原があるのは、宮津市北部に広がる世屋地区。“丹後半島の屋根”と言われる標高600mを超える山々とその山麓に広がる世屋高原からなる、秘境の雰囲気が漂う山深いエリアです。
★里山の原風景が今なお残る「世屋地区」についてをチェック!
上世屋地区から隣接する京丹後市内の山地に広がるのが、立派なブナ林。そもそもブナ林とは、秋になると葉を落とす落葉広葉樹であるブナを中心に、様々な木々が生える林のことをいいます。
秋に大量に落ちて積もった木々の葉は微生物たちの住み処になり、やがて養分たっぷりの土壌を作り上げるのです。ブナの森の別名は“自然のダム”。落ち葉がゆっくりと分解されてできた腐食層は、雨水をたっぷり吸収し蓄えるスポンジのような土壌。この水が豊かな森をつくり、そこで生きる動植物に恵みを与えてくれます。それだけでなく蓄えられた養分は川を流れ、海をも豊かにしてくれます。
無関係に思える山と海、実は密接に繋がっているのですね。つまり世屋のブナ林は、宮津の自然を支える母なる林だと言えるでしょう。
昔は日本各地に広がっていたブナ林ですが、山々にスギやヒノキといった建築資材に使いやすい木がたくさん植えられるようになったことなどから、今ではその姿を消しつつあります。近畿地方でブナ林が分布するのは、限られた数少ない地域のみです。
世屋のブナ林は、古くから周辺の集落の人々によって薪や建材の供給地として利用されてきた“里山ブナ林”。と言ってもやみくもな利用ではなく、恩恵に感謝しながら大切なブナ林を守り育てるべく、伐採の方法や周期が工夫されてきました。その結果、若木から樹齢100年を越す大木まで様々な樹齢や形のブナが見られる貴重な林となっており、一部は京都府自然環境保全地域に指定されています。
四季折々、さまざまな植物がブナ林を彩る
春夏にはアズキナシやウワズミザクラなどの花々、秋にはカエデやムシカリの木の実などがあちこちに見られ、年中爽やかな空気と鳥たちの声に包まれるブナ林は、訪れるだけで心身を深く癒してくれる場所。トレッキングコースがあるので、森林浴しながら散策を楽しむのもおすすめです。しかし野生動物やハチ、遭難など山に潜む危険には十分ご注意を。また、野草や鉱物を勝手に採取しない、ゴミは持ち帰るなど、マナーにも気をつけて足を運んでみてくださいね。
太古の自然を今に伝える大フケ湿原
宮津が誇る貴重な自然環境としてもう一つ注目したいのが、京都の自然200選に選ばれている大フケ湿原です。上世屋地区と木子地区の境あたり、標高約500m前後のエリアに約2.5ヘクタール(サッカーフィールド約3.5面分)にわたって広がっています。
大フケ湿原という名前の由来ですが、市の学芸員さん曰く、湿地や沼のようにぬかるんでいる場所を“フケ”と呼ぶことがあるそうで、大フケともなると“とても湿気ている”…という意味合いがありそうです。
湿原といっても、どんな場所なのかイメージが湧かない方も多いかもしれません。一般的に湿原とは浅い沼を元にして、それが周囲から自然と埋められることでできる湿気の多い草原のことをいいます。
水分が多い湿原では空気が不足し微生物の働きが妨げられてしまい、枯れたり落ちたりした植物の分解が進みにくいために土壌が泥炭化して積もり、泥炭層と呼ばれる層を形成します。この大フケ湿原の泥炭層はおよそ290cm。実はこのことから、この湿原がおよそ1万4000年という長い長い時間をかけてできたものだということがわかるんです。大フケ湿原の地層を調べることで、太古の自然環境や気候などを知ることができるというわけなんですね。
また、夏になると日本一小さなトンボとして知られ、京都府指定天然記念物のハッチョウトンボが姿を現します。ほかにも、湿原は珍しい昆虫や植物の宝庫。大フケ湿原は自然の今と昔を知る貴重な調査地としても、大切に守られています。
また、大フケ湿地周辺の年間雨量は、京都府内で最多。周辺の山から流れ出て湿原へと注ぐ水系は、湿原の中を複雑に分かれて南側の世屋川と北側の宇川に流れ出ています。つまり大フケ湿原は2つの川の源流であると同時に、宮津湾へ流れる世屋川と、日本海へ流れる宇川を分ける分水地点ともなっていて、宮津の自然循環の要地でもあるのです。
以前は、春にはサワオグルマの黄色やレンゲツヅジの朱色といった愛らしい花々の色彩に溢れ、夏には周りの森林の緑が、秋には色づいた木々が湿原を包み、冬には一面の銀世界に……と、四季を通して美しい景色が広がっていた大フケ湿原ですが、近年は環境や生態系の変化などから、写真のような湿地帯の景観となっています。
ブナ林と同じく、訪れる際には自然保護と安全への配慮を忘れずに。大自然にお邪魔するという気持ちで、美しい景色をそっと愛でたいですね。
桃源郷のようだと称される世屋地区には、昔懐かしい里山と集落、そして貴重な大自然が広がっていました。その風景は、見る人に自然の尊さを語りかけてくるようです。